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東京高等裁判所 平成8年(行ケ)109号 判決 1997年10月28日

大阪市東淀川区西淡路6丁目3番41号

中村物産株式会社淡路工場内

原告

中村憲司

同訴訟代理人弁護士

宇井正一

弁理士 岩出昌利

高知市鴨部201番地

被告

明星産商株式会社

同代表者代表取締役

久保田行俊

同訴訟代理人弁護士

田浦清

弁理士 田中幹人

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成7年審判第22123号事件について平成8年4月30日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、発明の名称を「化粧料封入袋」とする特許第1805837号発明(昭和54年12月3日原出願、昭和57年12月27日分割出願、平成2年7月10日出願公告、平成5年11月26日設定登録。以下「本件特許」といい、その発明を「本件特許発明」という。)の特許権者である。

被告は、平成7年10月6日、本件特許を無効とすることについて審判を請求し、特許庁は、この請求を同年審判第22123号事件として審理した結果、平成8年4月30日、「特許第1805837号発明の特許を無効とする。」との審決をし、その謄本は、同年5月18日、原告に送達された。

2  本件特許発明の要旨

気密性を有する1枚のシート材で形成されたほぼ四角形の封入袋であって、該封入袋はその内部に湿潤したシート状繊維素材が入った状態でセンターシール部および両端シール部によって密封されており、前記センターシール部と対向する封入袋の他面のほぼ中央部に、取り出し口を形成するための切離し用切込み部があり、該切込み部を覆って気密性フィルムよりなる開閉蓋が設けられ、該開閉蓋の封入袋側の面にはほぼ全面的に感圧接着剤層が形成されており、開閉蓋が感圧接着剤によって封入袋に貼着しており、開閉蓋の一端が固定部となっていることを特徴とするピロータイプ製袋加工法により製造された軟質の化粧料封入袋。

3  審決の理由

別紙1審決書写し(以下「審決書」という。)のとおりである。ただし、2頁8行の「12月6日」は、「11月26日」の、9頁4行の「地面」は「他面」の、15頁9行の「面」は「他面」の、22頁13行の「同大号証」は「同号証」のそれぞれ誤記である。

4  審決の認否

(1)  審決書2頁2行ないし9行、2頁11行ないし5頁16行(審判請求人の主張の主旨)は認める。

(2)  同5頁18行ないし10頁11行(被請求人の主張の主旨)のうち、9頁15行から17行「否定し得ないが、」までは争い、その余は認める。上記の部分は、(B)、(C)及び(H)を除いては、甲第7号証~甲第11号証に記載されていることは否定し得ないが、」の趣旨である。

(3)  同10頁17行ないし13頁1行(本件出願の出願日について)、13頁2行ないし14頁2行(審判請求人の主張(2)について)、14頁3行ないし7行(請求人の主張(3)について)は認める。

(4)  同14頁8行ないし15行は認める。

同14頁16行ないし16頁14行(本件特許発明の要旨)のうち、16頁6行「このことを」から14行までは争い、その余は認める。

同16頁15行ないし18頁2行(甲第11号証に記載された発明)は認める。

同18頁3行ないし19頁13行(甲第11号証の包装袋と本件特許発明との比較)のうち、「その余の点において一致している」ことは争い、その余は認める。

同19頁17行ないし21頁14行(相違点(イ)について)のうち、「相違点(イ)の作用・効果は、ウエットティッシュを容易に連続包装することができ、したがって包装コストを低減できるということである。甲第11号証の包装袋は3方をシールした密閉した包装袋である」ことは認め、その余は争う。

同21頁16頁ないし23頁20行(相違点(ロ)について)のうち、「甲第11号証の包装袋は3方をシールした袋であるから袋に表裏はない。したがって、袋の表裏いずれに開口部を設けるかは問題にならないが、センターシール型ピロー包装袋は表裏がある。」ことは認め、その余は争う。

24頁1行ないし15行は争う。

24頁16行ないし26頁11行は争う。

(5)  27頁1行ないし9行(まとめ)は争う。

5  審決を取り消すべき事由

審決は、相違点を看過し(取消事由1)、相違点についての判断を誤り(取消事由2、3)、手続を誤った(取消事由4)違法があるから、取り消されるべきである。

(1)  取消事由1(相違点の看過)

審決は、甲第11号証の1(審決書における甲第11号証。以下「甲第11号証」という。)の包装袋と本件特許発明とは、「その余の点において一致している」(審決書18頁7行)と認定するが、誤りである。

<1> まず、審決は、「このことを勘案すると、上記(B)における「センターシール部および両端シール部によって密封されている」包装袋は、軟質シートによるセンタシール型のピロー包装袋を意味するので、上記(H)における「ピロータイプ製袋加工法により製造された軟質の・・・封入袋」は、上記のことを繰り返しているに止まり、特にこれと異なる格別の要件を記載しているものとは認められない。」(審決書16頁6行ないし14行)と判断するが、誤りである。

(H)の要件(審決書15頁)は、本件特許発明は甲第12号証でいうピロータイプ製袋加工法により製造された軟質の化粧料封入袋に関するものであることを明確にするものであって、これと異なる製袋加工法によって製造されたセンターシール部及び両端シール部によって密封されている包装袋、例えば米袋等は本件特許発明では対象としていないのである。

<2> 物の発明に関し、特許請求の範囲の欄に製造方法を記載することについて特許庁の特許出願の審査基準には明文の規定はないが、運用上、製造方法を記載することが認められており、実際に方法的記載のある出願が特許として登録されている(甲第19号証の1、2)。

実用新案については、審査基準(産業別審査基準(明細書)、「明細書の書き方」)(甲第20号証)に規定があり、その実用新案登録請求の範囲において、物品を工程の…順序あるいは物品の組み立て順序でなければ表し得ない場合には、このような記載は認められると明記され、例えば、物品の組み立て順序を記載して実質的に組み立て方法として表現する記載も認められ、具体例に基づいて説明されている。実際に方法的記載のある実用新案登録請求の範囲で登録になった実用新案の例がある(甲第21号証)。

いずれにせよ、実用新案で方法的記載が認められる以上、特許においても認められるのは当然である。

<3> したがって、本件特許発明はピロータイプ製袋加工法により製造された封入袋であるのに対し、甲第11号証の包装袋はこれとは異なる点も相違点であり、審決はこの相違点を看過したものである。

(2)  取消事由2(相違点(イ)についての判断の誤り)

審決の相違点(イ)についての判断は誤りである。

<1> まず、審決は、甲第11号証の包装袋は、「連続包装されるものである」(審決書20頁1行、2行)と認定するが、誤りである。

甲第11号証の包装袋は、ロールフィルムから連続的に包装されるものではない。

<2> 次に、審決は、「甲第11号証の第5A図および第5B図にセンターシール型のピロー包装によるウエットティッシュ包装袋が記載されている」(審決書20頁2行ないし4行)と認定するが、誤りである。

甲第11号証の第5A図及び第5B図に記載されているものは、ロールフィルムから連続的に作られるピロー包装によるものではない。すなわち、この包装袋におけるセンターシール部は、シートの長手方向の両端部51、52にそれぞれ近接した域にシートの長手方向に平行の両縁部同士が完全に密着した継ぎ目54を設け、さらに上記継ぎ目の長手方向の間に開封及び再封鎖可能な綴じ目57を形成したものである(別紙2参照)。このような複雑接着の包装袋をロールフィルムから連続的に作ることは不可能に近い。

<3> 審決は、甲第10号証に記載された包装袋は、「ピロー包装袋であ(る)」(審決書20頁11行)と認定するが、誤りである。

甲第10号証に記載された包装袋は、「両端を密閉してなるポリエチレン袋において、」(甲第10号証1頁5行、6行)との記載及び袋に長手方向にシール部がない図面の記載から見て、あらかじめ筒状に形成した袋に所望の内容物を収納しその端部をシールしたものであって、センターシール部は存在せず、包装袋の三方を連続的にシールしたピロー包装袋ではない。さらに、「表裏いずれか一方」(甲第10号証1頁6行)との記載も、ポリエチレン袋の任意の面に切り込み部分を設けることを述べているにすぎない。

<4> したがって、審決の相違点(イ)について、甲第10号証及び甲第11号証から容易に推考できた旨の審決の判断は、誤りである。

(3)  取消事由3(相違点(ロ)についての判断の誤り)

審決の相違点(ロ)についての判断は誤りである。

<1> 審決は、「シートの段階でミシン目をその中央部に形成すべきことは甲第11号証の製袋工程の説明および同号証の第5A図の袋の製袋工程の説明から十分推測できることであるから、甲第11号証の第5A図に示されたセンターシール型ピロー包装袋について上記開口部を形成するときは、シートを折り曲げてセンターシール型ピロー包装袋に成形した状態ではその切り込み部がセンターシールの反対側の面になることは当業者が容易に推測できたことである。」(審決書22頁11行ないし20行)と判断するが、誤りである。

甲第11号証の第5A図及び第5B図に記載された包装袋は、センターシール部を構成する綴じ目によって包装袋を開封及び再封鎖可能としたものであるから、この包装袋において、開封及び再封鎖可能であるセンターシール部と対向する他面に更に甲第10号証及び甲第11号証の第4A図に記載された切り離し用切り込み部と開封蓋とを設けることは、1つの包装袋の対向する2つの面を開封及び再封鎖可能とすることになるが、化粧料を封入した封入袋の両面に、それぞれ開封及び再封鎖のための手段を設ける必要は全くない。

また、甲第10号証及び甲第11号証には、開封できないセンターシール部を有する包装袋において、このセンターシール部と対向する他面に、開封及び再封鎖のために別の切り離し用切り込み部と開閉蓋とを設けることは、示唆さえされていない。

<2> したがって、審決の相違点(ロ)についての判断は誤りである。

(4)  取消事由4(手続の違法性)

甲第11号証の第5A図に関し、被告(審判請求人)は、審判請求書(甲第16号証)の審判理由において何ら論及せず、また、甲第11号証の包装袋と同号証の第5A図に記載されたセンターシール型包装袋との組み合わせについても論じていない。そして、被告提出の甲第11号証の訳文(甲第11号証の2)も、第5A図に関する記載(甲第11号証5欄13行ないし27行)に限って訳出を省略している。したがって、被請求人である原告も、特許庁への答弁書(甲第17号証)において甲第11号証の包装袋と同号証の第5A図との関係については何も意見を述べることはなかった。

このような当事者が申し立てない理由に基づいて職権で審理を行った場合には、審判長は事前に審理の結果を当事者に通知し、相当の期間を指定して、意見を申し立てる機会をあたえなければならない(特許法153条2項)。

しかるに、本件では、このような弁明の機会を与えなかったものであるから、審決は当然に取り消されるべきである。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1ないし3は認め、同5は争う。審決の認定及び判断は正当であり、手続にも違法はないから、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)  取消事由1について

特許庁発行の審査基準の手引き(乙第1号証)では、「物の発明においては、方法的表現を用いてはならない。ただし、方法的表現以外に適切な表現がない場合はこの限りではない。」と規定されている。したがって、方法的記載は、他に適切な表現がない場合に例外的に認められるものであり、記載された方法的表現は飽くまで物の構成を特定するための手段である。

してみると、(H)の要件は、(B)の要件と重複した記載であり、既に(B)の要件によって「該封入袋はその内部に湿潤したシート状繊維素材が入った状態でセンターシール部および両端シール部によって密封されていること、」と具体的に物の構成が特定されており、更に、このセンターシール型のピロータイプ製袋加工法が公知の加工法である以上、(H)の要件は本件特許発明の新規性及び進歩性を拡張するものではない。

(2)  取消事由2について

<1> 甲第11号証の包装袋は、甲第11号証の出願前に公知となっている甲第8号証の公知技術及び甲第12号証の周知・慣用技術によって連続的に成型可能である。

<2> 甲第11号証の第5A図及び第5B図に記載のセンターシール部が開封及び再封鎖可能のピロー包装袋は、甲第11号証の出願前に公知となっている甲第8号証の公知技術及び甲第12号証の周知・慣用技術によって連続的に成型可能である。

<3> 甲第10号証は、三方をシールしたものである。すなわち、あらかじめ筒状に形成する手段として長手方向をシールすることは、選択の容易な周知技術手段にすぎない。また、甲第10号証は、取り出し口となる口部3を形成するためのコ字状の切込部2をポリエチレン袋のフィルム面に形成するものであり、当初から筒状に成形されたフィルムではその加工が困難となるため、フラットフィルムに切込部2を形成後にフラットフィルムの長手方向をシールして筒状に成形していると捉えることが技術的にみて相当である。

(3)  取消事由3について

審決は、「甲第11号証の包装袋は3方シールした袋であるから、袋に表裏はない。」、「センターシール型ピロー包装袋は表裏がある。」、「センターシール型ピロー包装袋によってウエットティッシュの封入袋を形成することが甲第11号証の第5A図に記載されている。」、「甲第11号証の第5A図に示されたセンターシール型ピロー包装袋について上記開口部を形成するときは、シートを折り曲げてセンターシール型ピロー包装袋に成形した状態ではその切り込み部がセンターシールの反対側の面になることは当業者が容易に推測できたことである。」、「ミシン目をセンターシールが存在する面に設けることは、切り込み部40の形成、開閉蓋42が袋の面に密着する構造であることからして、むしろ不自然であるということができる。」、「ピロー包装袋に開口を形成するために切り込みを設けるについて、これをシール線がない面に設けることが甲第10号証から読み取れる。」、「したがって、センターシール型ピロー包装袋に甲第11号証の包装袋のミシン目による切り込み部を形成して、これによって取り出し口を形成するとき、センターシールの反対側の面に上記切り込みを設けることは、甲第10号証から読み取れる上記の事項を参酌することによっ当業者が容易に想到できたことであると言うこともできる。」ということを述べているものであり、これに反する原告の主張は審決を誤解するものである。

(4)  取消事由4について

被告(審判請求人)は、本件無効審判において甲第7号証ないし甲第12号証を提出し、本件特許発明の各構成要素につき公知であることを具体的に主張し、本件特許発明は上記甲号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであって、進歩性を欠くものであるから、特許法29条2項の規定に違反してなされたものである旨主張した。

そして、甲第11号証は、英文の全体が証拠として提出され、甲第11号証の訳文(甲第11号証の2)には、「図5Aは、密閉状態で封止されるフレキシブル容器が再密封可能な合わせ目をもつ本発明の第6の実施例を示す。図5Bは図5Aの示した再密封可能な合わせ目の詳細な断面図である。」(2頁4行ないし6行)と記載されている。

したがって、審決は当事者が申し立てない理由について審理したものではない。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立は、いずれも当事者間に争いがない。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本件特許発明の要旨)及び同3(審決の理由)については、当事者間に争いがない。

そして、審決書10頁17行ないし13頁1行(本件出願の出願日について)、13頁2行ないし14頁2行(審判請求人の主張(2)について)、14頁3行ないし7行(請求人の主張(3)について)、14頁16行から16頁6行「意味するものと解される。」まで、及び、16頁15行ないし18頁2行(甲第11号証に記載された発明)は、当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の取消事由の有無について検討する。

(1)  取消事由1について

<1>  審決書18頁3行ないし19頁13行(甲第11号証の包装袋と本件特許発明との比較)のうち、「その余の点において一致している」ことを除く事実は、当事者間に争いがない。

<2>  物の発明においては、方法的表現を用いることは原則として許されず、方法的表現以外に適切な表現方法がない等の理由で例外として特許請求の範囲にその物の製造方法が記載された場合は、当該特許請求の範囲は、当該製造方法で製造された物と他の製造方法で製造された物が最終的な製造物として同じである限り、当該製造方法によって製造されたものに限らず、他の製造方法で製造されたものも含有すると解すべきである。そして、この点は、特許出願人が当該製造方法で製造された物に限定する意思を有しているからといって、左右されるものではない。

これを本件について見ると、審決書中の本件特許発明の構成要件の分説(15頁)によれば、(B)の要件は該封入袋はその内部に湿潤したシート状繊維素材が入った状態でセンターシール部および両端シール部によって密封されていることと規定し、更に(H)の要件は「ピロータイプ製袋加工法により製造された」との方法的表現による規定をしているが、「ピロータイプ製袋加工法により製造された」物と他の方法により製造された物が「内部に湿潤したシート状繊維素材が入った状態でセンターシール部および両端シール部によって密封されている」最終的製造物として異なるとの事情も認められず、したがって、(H)の要件が新たな要件を付け加えるものとも認められないから、本件特許発明の要旨は、「ピロータイプ製袋加工法により製造された」物だけでなく、他の方法で製造された物も含むものと解すべきである。

そうすると、これと同旨の審決の判断(審決書16頁6行ないし14行)に誤りはないから、審決には原告主張の相違点の看過もない。これに反する原告の主張は採用できない。

<3>  したがって、原告主張の取消事由1は理由がない。

(2)  取消事由2について

<1>  「相違点(イ)の作用・効果は、ウエットティッシュを容易に連続包装することができ、したがって包装コストを低減できるということである。甲第11号証の包装袋は3方をシールして密閉した包装袋である」ことは、当事者間に争いがない。

<2>  審決書17頁下から3行ないし18頁2行(甲第11号証の第5A図についての記載事項)は、前記のとおり、当事者間に争いがなく、甲第11号証の1、2によれば、甲第11号証(の1)には、その第5A図及び第5B図(別紙2参照)につき、「図5Aは、密閉状態で封止されるフレキシブル容器が再密封可能な合わせ目をもつ本発明の第6の実施例を示す。」(甲第11号証の2第2頁4行、5行)、「図5Bは、図5Aの示した再密封可能な合わせ目の詳細な断面図である。」(同2頁6行)、「図5Bは、再密封可能な蓋体57の部分断面図を示す。この場合、重合縫い目54を設けることにより、50aで示されるフレキシブル材料部分が50bで示されるフレキシブル材料部分に重なる。好適には、部分50bの上面に弱い接触接着剤56を適用することにより、部分50aが部分50bへ接触するとき圧力感応による再密封蓋体57を実現する。これらの部分は、上部分50aを下部分50bからはがすことにより、パケット50の中味を取り出すべく互いに離すことができる。」(同5頁下から2行ないし6頁5行)と記載されていることが認められ、この事実によれば、甲第11号証の第5A図及び第5B図に記載されたものそのものは、原告主張のとおり、そのセンターシール部は、シートの長手方向の両端部51、52にそれぞれ近接した域にシートの長手方向に平行の両縁部同士が完全に密着した継ぎ目54を設け、さらに上記継ぎ目の長手方向の間に開封及び再封鎖可能な綴じ目57を形成したものであると認められる(別紙2参照)。しかしながら、審決書に「甲第11号証の第5A図および第5B図にセンターシール型のピロー包装によるウエットティッシュ包装袋が記載されている。」(20頁2行ないし4行)と記載されているように、審決は、甲第11号証の第5A図および第5B図から、綴じ目が形成されていない通常のセンターシール型のピロー包装によるウエットティッシュ包装袋を抜き出して認定しているにすぎないものと認められる。

原告は、甲第11号証の第5A図及び第5B図に記載きれているものは、ロールフィルムから連続的に作られるピロー包装によるものではない旨主張するが、原告のこの点の主張は、審決の認定したものが開封及び再封鎖可能な綴じ目57を形成したものであることを前提とするものであり、その前提自体が認められないから、採用できない。

<3>  センターシール型のピロー包装によるものが連続包装できることは、周知のことであり、また、そのような包装方法は慣用された技術であるところ(甲第12号証参照)、連続包装を可能とすることを目的として、甲第11号証の包装袋をセンターシール型のピロー包装とすることは、当業者であれば当然行うことであると認められる(なお、連続包装を可能とするとの課題自体は、工業的生産を行おうとする場合に当然生ずる課題であるから、この課題の設定自体に進歩性があると認めることはできない。)。

<4>  そうすると、甲第11号証の包装袋の袋の形態を甲第11号証の第5A図に示されたセンターシール型のピロー包装に変更することは、当業者が容易に想到できたことと認められ、これと同旨の審決の判断に誤りはない。

<5>  したがって、原告主張の取消事由2は理由がない。

(3)  取消事由3について

<1>  「甲第11号証の包装袋は3方をシールした袋であるから袋に表裏はない。したがって、袋の表裏いずれに開口部を設けるかは問題にならないが、センターシール型ピロー包装袋は表裏がある。」ことは、当事者間に争いがない。

<2>  連続包装に当たり、開口部を形成するためのミシン目の切り込みはフラットシートの段階で入れておくものと認められるところ、センターシール部となるべき部分にこれを形成しようとすれば、センターシール部が邪魔となってこれを形成できないか、又は、形成できたとしても小さな開口部しか形成できないから、上記切り込み部は、センターシール部が存在しない面に形成するのが普通のことであると認められる。

そうすると、甲第11号証の包装袋の袋の形態を甲第11号証の第5A図に示されたセンターシール型のピロー包装に変更したことに伴い、開口部をセンターシールされていない面に形成することは、当業者が容易に想到できたことと認められる。

そして、本件特許発明のように構成したことにより格別顕著な効果を奏するとも認められない。

よって、これと同旨の審決の判断に誤りはない。

<3>  原告は、甲第11号証の第5A図及び第5B図に記載された包装袋は、センターシール部を構成する綴じ目によって包装袋を開封及び再封鎖可能としたものであるから、この包装袋において、開封及び再封鎖可能であるセンターシール部と対向する他面に、更に甲第10号証及び甲第11号証の第4A図に記載された切り離し用切り込み部と開封蓋とを設けることは、1つの包装袋の対向する2つの面を開封及び再封鎖可能とすることになるが、化粧料を封入した封入袋の両面に、それぞれ開封及び再封鎖のための手段を設ける必要は全くない旨主張する。

しかしながら、審決が甲第11号証の第5A図および第5B図から綴じ目を形成されていない通常のセンターシール型のピロー包装によるウエットティッシュ包装袋を抜き出して認定していることは、前記(2)<2>に説示のとおりであり、審決の認定したものが開封及び再封鎖可能な綴じ目57を形成したものであるとの前提自体が認められないから、この点の原告の主張は採用できない。

<4>  したがって、原告主張の取消事由3は理由がない。

(4)  取消事由4について

<1>  原告は、甲第11号証の第5A図に関し、被告は、審判請求書(甲第16号証)の審判理由において何ら論及せず、また、甲第11号証の包装袋と同号証の第5A図に記載されたセンターシール型包装袋との組み合わせについても論じておらず、被告提出の甲第11号証の訳文(甲第11号証の2)も、第5A図に関する記載(甲第11号証5欄13行ないし27行)について訳出を省略しているから、当事者の申し立てない理由に基づいて審理を行った場合に当たる旨主張する。

<2>  確かに、甲第11号証の1、2、甲第16号証及び甲第18号証によれば、被告は、審判請求書(甲第16号証)中の進歩性について論じた箇所(特に、センターシール部に関する(B)の要件(10頁4行ないし27行)及びピロータイプ製袋加工法に関する(H)の要件(12頁10行ないし13頁1行)について論じた箇所)において、甲第11号証の第5A図及び第5B図に基づいた主張をしておらず、被告が提出した甲第11号証の訳文(甲第11号証の2)においても、第5A図について説明した箇所(甲第11号証5欄13行ないし27行)が訳出されていなかったことが認められる。

しかしながら、甲第11号証の1、2及び甲第16号証によれば、被告の審判請求書(甲第16号証)には、「本件発明は遡及した出願日前に頒布された刊行物(甲第7号証~甲第12号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、進歩性を欠くものであり、本件発明は特許法第29条第2項に該当して特許を受けることができないものである。」(3頁11行ないし16行)、「(6)まとめ よって、本件発明は甲第7号証~甲第12号証に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項に該当するものであって、特許を受けることができないものである。」(15頁下から6行ないし3行)と記載され、甲第11号証には、第5A図及び第5B図の図面が記載されており、甲第11号証の訳文(甲第11号証の2)にも、「図5Aは、密閉状態で封止されるフレキシブル容器が再密封可能な合わせ目を持つ本発明の第6の実施例を示す。図5Bは図5Aの示した再密封可能な合わせ目の詳細な断面図である。」旨が記載されていたことが認められる。

そうすると、審判請求書において、進歩性に関して、(B)や(H)の要件について述べた箇所で甲第11号証の第5A図及び第5B図を引用していないが、本件特許発明は甲第7ないし第12号証に基づいて容易に発明をすることができたものである旨が審判請求書に記載され、甲第11号証にも第5A図及び第5B図が記載され、かつ、訳文にも第5A図及び第5B図について記載された箇所があったことは前記認定のとおりであるから、本件において、審決が「当事者・・・が申し立てない理由」(特許法153条2項)について審理したものではないと認められる。

<3>  したがって、原告主張の取消事由4は理由がない。

(5)  結論

他に審決を取り消すべき事由は認められない。

したがって、審決の取消しを求める原告の請求は理由がない。

3  よって、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

平成7年審判第22123号

審決

高知県高知市鴨部201番地

請求人 明星産商 株式会社

高知県高知市天神町14番25号 田中国際特許事務所

代理人弁理士 田中幹人

大阪府大阪市東淀川区西淡路6丁目3番41号 中村物産株式会社淡路工場内

被請求人 中村憲司

東京都港区虎ノ門3丁目5番1号 虎ノ門37森ビル 青和特許法律事務所

代理人弁理士 石田敬

東京都港区虎ノ門3丁目5番1号 虎ノ門37森ビル 青和特許法律事務所

代理人弁理士 岩出昌利

東京都港区虎ノ門3丁目5番1号 虎ノ門37森ビル 青和特許法律事務所

代理人弁理士 戸田利雄

東京都港区虎ノ門3丁目5番1号 虎ノ門37森ビル 青和特許法律事務所

代理人弁理士 西山雅也

上記当事者間の特許第1805837号発明「化粧料封入袋」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

特許第1805837号発明の特許を無効とする。

審判費用は、被請求人の負担とする。

理由

本無効審判請求に係る特許第1805837号(以下これを「本件特許」という)は、昭和54年12月3日の特許出願(特願昭54-156676号の分割出願、特願昭57-227151号、以下これを「本件出願」という)について、平成2年7月10日の出願公告(特公平2-30948号)を経て、平成5年12月6日に登録されたものである。

1、 審判請求人の主張の主旨

(1) 請求人は本件特許発明は、本件出願の原出願の出願当初の明細書に記載された発明の範囲を越えるものであるから、本件出願は特許法第44条第1項の規定に違背するものであり、したがって、同法同条第3項の規定による出願日の遡及は認められないものである。それゆえ、本件出願の出願日は現実の出願の日、昭和57年12月27日である。

本件特許発明は、本件出願の原出願の出願当初の明細書に記載された発明の範囲を越えるものであるという、その理由の主旨は次ぎのとおりである。

本件特許明細書、殊にその特許請求の範囲の欄に記載された「切り離し用切り込み部」は、初めて開封するときに、ミシン目状切開部3等のそれが破り取られることを実感できる切開部3に限らず、破り取られることを実感できないような切り離し可能な切り込み部をも含ませることを意図するものであるから、この「切り離し用切り込み部」は、原出願の出願当初の明細書に記載された「ミシン目状の開口部3」であって、「封緘機能を有する」開口部3であり、かつ、開閉蓋5を最初に引き剥がす時にはぎ取られて取り出し口が形成される開口部3の範囲を越え、これ以外の切り離し可能な切り込み部をも含むものである。

したがって、本件特許明細書の特許請求の範囲は原出願の出願当初の明細書に記載さた事項の範囲を越えるものである。

(2) 特許請求の範囲の記載中の「切り離し用切り込み部」は、初めて開封するときに、ミシン目状切開部3等のそれが破り取られることを実感できる切開部3に限らず、破り取られることを実感できないような切り離し可能な切り込み部をも含ませることを意図するものであるから、この「切り離し用切り込み部」はミシン目状切開部3等のそれが破り取られることを実感できる切開部を特定しているものとは言えない。

したがって、本件特許明細書の特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項を不足なく明確に記載したものとはいえず、特許法第36条第4項(第5項の誤記と認める)の規定に違反するものである。

それゆえ、本件特許は特許法第36条第5項の規定に違反してなされたものである。

(3) 上記(1)のとおり、本件出願の出願日は昭和57年12月27日であるから、本件特許発明は、本出願日の前に頒布された特開昭56-84205号公報(甲第5号証)、あるいは実開昭56-84942号マイクロフィルムに記載された発明に基づいて、本件出願の出願前に当業者が容易に発明することができたものである。

したがって、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(4) また、仮に本件出願の出願日が特許法第44条第3項の規定により、原出願の出願日であるとみなされるとしても、本件特許発明は甲第7号証~甲第12号証に記載された発明の基づいて本件出願の出願前に当業者が容易に発明することができたものである。

したがって、仮に本件出願の出願日が昭和54年12月3日であるとしても、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

2、 被請求人の主張の主旨

(1) 審判請求人の主張(1)について

原出願の出願当初の明細書に、「シート1に円形、細長方形、楕円、ヒシ型、角型等の所望形状の取り出し部2として歯型プレス機にて、ミシン目状に切開部3を形成した」ことが記載されており、この記載およびこの切開部3の機能に関する他の記述から、上記切開部3が切離部を切り離すことによって取り出し口を形成するための切り離し用切り込み部を意味し、また、ミシン目状の切り込みは、その一例であることは明らかである。

また、同明細書に、「シート1の取り出し口2の対面に取り出し口部2を被覆するよう一端をシート1に、熱シール、高周波シール、超音波シール、接着剤等の方法で接合固定した固定部4をもっ開閉蓋5を設けて仕上げたシート7を形成した後通常の製袋機にセットし、前記開閉蓋5が袋の一面に表出する製袋加工してレジストマーク8部にて、カッター6で単袋化して仕上げる。」と記載されており、これからその包装体は「センターシール部および両端シール部によって密封」したものであり、さらに「ピロータイプ製袋加工法によって製造されたものであることは明らかである。

したがって、原出願の出願当初の明細書に記載された事項の範囲外の事項であると請求人が主張する本件特許発明の構成要件は全て原出願の出願当初の明細書に記載から読み取れる範囲内の事項である。

それゆえ、請求人の上記主張(1)は理由がない。

(2) 請求人の主張(2)について

本件明細書でいう「切り離し用切り込み部」は、初めて袋の開閉蓋5を開いたときに、封入袋の切り離し部がはがれることを実感できるものであって、必ずしもミシン目による切り込み部3に限るものではない。ミシン目は、封入袋の切り離し部が剥がされることを実感できる切り込み部の一例であり、これ以外の形態の切り込み部によっても、封入袋の切り離し部が剥がされることを実感できる切り込み部を形成し得ることは、発明の詳細な説明の記載から当業者が常識的に了解できることである。したがって、「切り離し用切り込み部」は発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項を特定するものであり、特に特許法第36条第5項の規定に違反するものではない。

したがって、特許請求の範囲の欄の記載における「切り離し用切り込み部」は、上記の作用を奏しないものをも含むものであるという、請求人のこの主張(2)は理由がない。

(3) 請求人の主張(3)について

請求人の主張(3)は同人の主張(1)を前提とするものであり、この主張(1)は理由がないことは上記のとおりである。したがって、請求人の主張(3)はその前提が成り立たず、理由がない。

(4) 請求人の主張(4)について

本件特許発明の要旨は、本件特許明細書の特許請求の範囲の欄に記載したとおりであり、これを分節すると次ぎの通りである。

(A) 気密性を有する一枚のシート材で形成されたほぼ四角形の封入袋であること、

(B) 該封入袋はその内部に湿潤したシート状繊維素材が入った状態でセンターシール部および両端シール部によって密封されていること、

(C) 前記センターシール部と対向する封入袋の地面のほぼ中央部に、取り出し口を形成するための切り離し用切り込み部があること、

(D) 切り込み部を覆って気密性フィルムよりなる開閉蓋が設けられていること、

(E) 該開閉蓋の封入袋側の面にほぼ全面的に感圧接着剤層が形成されていること、

(F) 開閉蓋が感圧接着剤によって封入袋に貼着していること、

(G) 開閉蓋の一端が固定部となっていること、

(H) ピロータイプ製袋加工法により製造された軟質の化粧料封入袋であること。

上記の各構成要素についてみれば、個々の事項がそれぞれ甲第7号証~甲第11号証に記載されていることは否定し得ないが、それぞれに記載された発明は本件特許発明とは全く異なり、また、本件特許発明を全体として評価すれば、これらの各証拠方法に記載されたそれぞれの事項を組み合わせることによって当業者が容易に発明できたものであると言うべき理由はなく、さらに、本件特許発明の作用・効果は、上記証拠方法に記載された事項から予想される作用・効果ではない。

したがって、本件特許発明は上記各証拠方法に記載された事項を単に組み合わせ、あるいは単に寄せ集めたものではなく、これらに基づいて当業者が本件出願の出願前に容易に発明できたものであるというべきものではない。

それゆえ、請求人の上記主張(4)は理由がない。

以上が本審判請求人、被請求人の主張の要旨である。

3、 判断

そこで、両者の主張を勘案しつつ、本件特許についての上記無効理由の存否を判断する。

(1)、 本件出願の出願日について、

本件特許明細書の記載における「切り離し用切り込み部」は、最初に開閉蓋を引き剥がして開封するときに切り込み部が切れて取り出し口が形成され、かつ、この切り込み部が「封緘機能」を有する切り込み部を意味することは、明細書の記載、例えば、「切り込み部から封入袋一部(切離し部)が破れるようにしたので、切込み部は初期使用時に封緘機能を具備する。」の記載から明らかであり、この封緘機能を具備しない切込み部をも意味するものと解すべき特段の理由は明細書の記載に見出だせない。

そして、開閉蓋が透明であれば上記「切り離し用切り込み部」が切れているか否かを外から目視で確認できるので、この目視による封緘機能を奏することができるが、しかし、本件特許発明は「開閉蓋」が透明であることを要件としてはいないので、本件発明の「封緘機能」が、未開封であることを視覚によって確認できることを意味するものとは言えない。そうすると、最初の開封時に切り込み部が千切れるときの音、ないしは開閉蓋引き剥がし操作における感触によるものと言う外はなく、このことは原明細書における「切開部3は封緘機能を具備しかつ・・・切開部から切り離されたシート1の・・・」の記載から当業者が常識的に了解できることである。また、ミシン目状の切り込み部がこのような機能を奏することは明らかであるが、ミシン目のみがこのような機能を奏するものではなく、例えば、不連続なスリット、肉薄にした溝など、切り離しが可能でかつ一定の切り離し抵抗を有し、この切り離し抵抗によって未開封か否かを開封操作者に感触として知覚させうるものであれば、このことをもって必要、かつ十分であることもまた、上記記載から当業者が常識的に了解できたことであるということができる。

以上のとおり、上記の「切り離し用切り込み部」は、上記の機能を奏するものと解されるのであるから、これが、原出願の出願当初の明細書の記載における「ミシン目状開口部」以外のものをも含む意味であるとしても、このことをもって、ただちに本件特許発明は原出願の出願当初の明細書に記載された事項の範囲を越えるものであるとは言えない。

したがって、請求人の主張(1)は理由がない。

(2) 審判請求人の主張(2)について

この主張(2)は、上記主張(1)の理由と同様の理由によるものである。しかし、本件特許明細書の発明の詳細な説明における「切り離し用切開部」の上記作用・効果は「ミシン目状の開口部」に限って奏するものではなく、不連続なスリット、肉薄にした溝などの開口部も奏し得るものであり、またこれらがシートの切り離しを容易にする手段として互いに同等な手段であることも従来周知のことである。したがってこの「切り離し用切開部」はこれらのものをも含むものと解するのが相当である。そして、このことは明細書一体の原則からして特許請求の範囲の記載における「切り離し用切開部」についても同様である。

したがって、本件特許明細書の特許請求の範囲において「ミシン目状の開口部」を特にミシン目状開口部に特定していないからといって、直ちに、同特許請求の範囲の記載は特許法第36条第5項の規定に著しく違反するとは言えない。

(3) 請求人の主張(3)について

他方、請求人の主張(3)は同主張(1)を前提とするものであり、この主張(1)は理由がないことは上記のとおりである。したがって、請求人の主張(3)については理由がない。

(4) 請求人の主張(4)について

請求人の主張(4)は、その理由の子細はともかく、本件特許発明は甲第7号証に記載された発明~甲第11号証に記載された発明に基づいて、本件出願の出願前に当業者が容易に発明することができたものであるから、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるということである。

(4)-1、本件特許発明の要旨

ところで、本件特許発明の要旨は、その明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されたとおりと認められ、これを分節すると次ぎのとおりである。

(A) 気密性を有する一枚のシート材で形成されたほぼ四角形の封入袋であること、

(B) 該封入袋はその内部に湿潤したシート状繊維素材が入った態でセンターシール部および両端シール部によって密封されていること、

(C) 前記センターシール部と対向する封入袋の面のほぼ中央部に、取り出し口を形成するための切り離し用切り込み部があること、

(D) 切り込み部を覆って気密性フィルムよりなる開閉蓋が設けられていること、

(E) 該開閉蓋の封入袋側の面にほぼ全面的に感圧接着剤層が形成されていること、

(F) 開閉蓋が感圧接着剤によって封入袋に貼着していること、

(G) 開閉蓋の一端が固定部となっていること、

(H) ピロータイプ製袋加工法により製造された軟質の化粧料封入袋であること。

なお、上記(B)における「センターシール部および両端シール部によっで密封されている」包装袋は、いわゆるセンターシール型のピロー包装袋を意味するに他ならない。さらに、上記(A)でいう「シート材」は、発明の詳細な説明の記載を参酌するとピロー包装に供し得る軟質性を有するシートを意味するものと解される。このことを勘案すると、上記(B)における「センターシール部および両端シール部によって密封されている」包装袋は、軟質シートによるセンタシール型のピロー包装袋を意味するので、上記(H)における「ピロータイプ製袋加工法により製造された軟質の・・・封入袋」は、上記のことを繰り返しているに止まり、特にこれと異なる格別の要件を記載しているものとは認められない。

(4)-2、甲第11号証に記載された発明

他方、本審判請求理由の証拠方法として提出された米国特許第4156493号明細書(甲第11号証)は昭和54(1979)年5月29日に米国において頒布された刊行物であり、このものにほぼ四角なウエットシート、ウエットティッシュの封入袋が記載されており、特にその第4A図およびその詳細な説明に、ビニールフィルム等の軟質プラスチックシートを折曲げ、三方をシールして密封した包装袋に形成し、この包装袋の表面中央に円形のミシン目による開口部35’を形成し、その上に粘着剤44によってビニールフィルム等の湿分不透過性の開閉蓋42(具体的には「フラップ42」)を接着し、当該開閉蓋42の一端41を固定したものである。そして、初めて開閉蓋42を引き剥がすとき、上記ミシン目から切れて開口部(取り出し口)35’が形成され、ミシン目から切り取られた円形部分40は開閉蓋の裏面に接着したままとなり、当該円形部分40が再閉蓋したときに開閉蓋42と一緒になって上記開口部35’を閉じるものである(以上の甲第11号証に記載されたウ土ットティッシュ封入袋を以下「甲第11号証の包装袋」という。)。

さらに、同第5A図およびその詳細な説明に、同第4A図に示すものと同等なものとして、一枚の軟質プラスチックシートを筒状に曲げ、その両側端をシールしたウエットティッシュ封入袋が記載されている。

(4)-3、甲第11号証の包装袋と本件特許発明との比較

そこで、甲第11号証の包装袋と本件特許発明とを比較すると、本件特許発明は、次ぎの点において相違し、その余の点において一致しているものと認められる。

(イ) 甲第11号証の包装袋は三方をシールして密封した包装袋であるのに対して、本件特許発明はセンターシール型ピロー包装袋である点、

(ロ) 本件特許発明はセンターシールされていない面に上記開口部を形成した点。

なお、甲第11号証の包装袋の上記「ミシン目」は、初めて開閉蓋を引き剥がして開封するときに千切られ、これによって上記円盤部分40が袋本体から分離されるものであるから、これが引き千切られるときは、再開封のときに比べて開閉蓋の引き離し抵抗が異なり、このために初めての開封操作時と再開封操作時とでは開閉操作者に対して異なる感触を与えることは容易に推測できることである。したがって、この開封操作時の感触の違いによって未開封のものか否かを利用者は経験的に感知し得るものと推認され、これを否定すべき積極的な特段の理由はない。

したがって甲第11号証の包装袋の開口部35’を区画するミシン目は本件発明の「切り離し用切込み部」と同様の封緘機能を奏することは否定し得ない。

それゆえ、本件発明はその「切り離し用切り込み部」に関して甲第11号証の包装袋に対して特に相違すると言うことはできない。

(4)-4、甲第11号証の包装袋に対する本件特許発明の相違点についての考察

〔相違点(イ)について〕

相違点(イ)の作用・効果は、ウエットティッシュを容易に連続包装することができ、したがって包装コストを低減できるということである。

甲第11号証の包装袋は3方をシールして密閉した包装袋であるが、これは連続包装されるものである。また、甲第11号証の第5A図および第5B図にセンターシール型のピロー包装によるウェットティッシュ包装袋が記載されている。

そして、ピロー包装袋について、繰り返し密封可能な開閉蓋によって取り出し口を開閉するようにし、これによってピロー包装袋を破ることなく反復継続的にこれを使用することが同証拠方法として提出された実開昭48-10875号マイクロフィルム(甲第10号証)に記載されている。このものは両端をシールしたピロー包装袋であり、そのシール線がない表面に切り込みを入れて蓋片4、および開口部3を形成し、この蓋片4および開口部3の周辺を覆うように粘着テープ5を重ねてあり、この粘着テープ5を剥離することによって、上記蓋片4が一緒に開かれ、内容物7を開口部3から適宜取り出すことができ、粘着テープ5を再び袋本体に粘着することによって、蓋片4と粘着テープ5によって上記開口3が再び閉蓋されて密封されるものである。このものはその被包装物の種類の如何に関わらず、上記作用・効果を奏することは、その記載において被包装物を特定していないことから明らかである。

したがって、封入するもの(被包装物)の如何に関わらず、ピロー包装袋に上記のとおりの蓋の密封構造を適用することによって、上記の作用・効果を奏することが、甲第10号証の発明によって示唆されていると言うことができる。

したがって、甲第11号証の包装袋の袋の形態を同号証の第5A図に示されたセンターシール型のピロー包装に変更することそのこと自体、すなわち相違点(イ)は、甲第10号証に記載された発明を参酌することによって当業者が容易に思考想到できたことであると言える。

〔相違点(ロ)について〕

甲第11号証の包装袋は3方をシールした袋であるから袋に表裏はない。したがって、袋の表裏いずれに開口部を設けるかは問題にならないが、センターシール型ピロー包装袋は表裏がある。そして、センターシール型ピロー包装袋によってウエットティッシュの封入袋を形成することが甲第11号証の5A図に記載されている(この甲第11号証の第5A図に記載された例は、このセンターシール部を粘着剤によって接着することによって、センターシール部を取り出し口としたものであるが、この取り出し口の構造の如何はともかく、センターシール型ピロー包装袋によって、甲第11号証の包装袋と同様の目的、同様の機能を有する、ウエットティッシュの包装袋を形成することがこれによって示されていることは明らかである)。

そして、シートの段階でミシン目をその中央部に形成すべきことは甲第11号証の製袋工程の説明および同大号証の第5A図の袋の製袋工程の説明から十分推測はできることであるから、甲第11号証の第5A図に示されたセンターシール型ピロー包装袋について上記開口部を形成するときは、シートを折り曲げてセンターシール型ピロー包装袋に成形した状態ではその切り込み部がセンターシールの反対は側の面になることは当業者が容易に推測できたことである。また、逆にミシン目をセンターシールが存在する面に設けることは、切り取り部40の形成、開閉蓋42が袋の面に密着する構造であることからして、むしろ不自然であるいうこともできる。

また、ピロー包装袋に開口を形成するために切り込みを設けるについて、これをシール線がない面に設けることが甲第10号証の記載から読み取れる。したがって、センターシール型ピロー包装袋に甲第11号証の包装袋(第4A図に示すもの)のミシン目による切り込み部を形成して、これによって取り出し口を形成するとき、センターシールの反対側の面に上記切り込みを設けることは、甲第110号証から読み取れる上記の事項を参酌することによって当業者が容易に想到できた事であると言うこともできる。

したがって相違点(ロ)は、甲第11号証の包装体の袋の形態を甲第11号証の第5A図に示すセンターシール型包装袋に変更するについて、当業者が容易に思考、想到できたことであると言える。

また、本件特許発明が、甲第11号証の包装体の袋の形態を、甲第11号証の第5A図に示されたセンターシール型包装袋に変更するについての技術的課題を解決するために特別な手段を講じたものとも解されず、また、そのように解すべき特段の理由は明細書の記載に見出だせない。

さらに、本件特許発明が、甲第11号証の包装袋の形態を、甲第11号証の第5A図に示すセンターシール型の包装袋としたことによって、これらからは予想し得ない本件特許発明特有の格別顕著な作用・効果を生じたものとも解されず、またそのように解すべき特段の理由は明細書の記載に見出だせない。

したがって、この点に格別の進歩性は認められない。

なお、被請求人は答弁書において次のとおり主張する。

甲第11号証には記載された包装袋は3方をシールした袋であり、これに対して、本件特許発明はピロー包装袋である点において相違し、この包装袋をピロー包装袋に変更することは当業者が容易に成し得たことではなく、また、ウエットティッシュをセンターシール型のピロー包装袋に封入したことによって、ティッシュの湿潤状態を長期にわたって保存して品質を均一に保つことができ、さらに、ウエットティッシュを連続包装できるものであるから、その包装コストを低減できる。これらの効果は本件特許発明特有の効果である。

また本件特許発明は、甲第11号証に記載された包装袋を通常の携帯用の簡易ティッシュ袋(甲第9号証)におけるような袋に単に変更したものではない。したがって、本件特許発明は進歩性を有するものである。

しかし、ウエットティッシュを長期間湿潤した状態に保存して、繰り返し取り出して使用できることは、甲第11号証の包装袋が奏する作用・効果であり、また同号証の第5A図に記載されたものにも期待される作用・効果である。したがって、被請求人が主張する、ティッシュの湿潤状態を長期に渡って保存して品質を均一に保つことができるということは、本件発明特有の効果とは言えない。

また、甲第11号証の包装袋は連続したプラスチックシートによって連続的に包装、成形されるものであるから、連続包装によって包装コストを低減できることは、甲第11号証の包装袋にも当て嵌まる作用、効果であり、また、被包装物の如何に関わらず、ピロー包装法による包装体に一般的に言える作用、効果である。したがって、請求人が主張する、ウエットティッシュを連続包装できるものであるから、その包装コストを低減できるということは、本件特許発明特有の効は果であると言えない。

また、甲第11号証の包装体の包装袋の形態をピロー包装による包装体に変更することの容易性については上述の通りである。

したがって、被請求人の上記主張は理由がない。

(4)-5まとめ

以上のとおりであるから、本件特許発明は、甲第11号証に記載された包装袋における袋の形態を、同証の第5A図に記載したセンターシール型ピロー包装袋に単に変更したというに相当し、これらに基づいて、本件出願の出願前に当業者が容易に発明できたものであると言わざるを得ない。

それゆえ、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項2号に規定する特許に当たる。

よって、結論のとおり審決する。

平成8年4月30日

審判長特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

別紙 2

<省略>

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